花粉症の注射は2種類➡3種類に! 比較して解説します
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まだまだ寒い日が続きますが、そろそろスギ花粉の本格飛散の開始の時期になってきました。
「えっ、もう花粉症の症状が出ているけど、まだ花粉は飛んでないの」と思っている方もいるかもしれませんね。
よく言う飛散開始というのは「本格的に花粉が飛び始まますよ」ということなのです。飛散開始日の定義は「2日連続で花粉を1㎠に1個以上観測した初めの日」ということになっているので連続で飛んでなかったりすると飛散開始とは言わないのです。
ですので、飛散開始日前でも花粉は少しずつ飛び始めているのです。
また、花粉症の方は過敏症でもあるので、温度差などの色々な刺激にも過敏になり始めて、花粉症症状が出てきます。
今回はスギ花粉症に対する注射の治療法についてお話いたします。
花粉症の注射治療は従来からの2種類にもう1種類が加わって3種類あります。一つ目は当院でも行っております「アレルゲン免疫療法」です。もう一つは「オマリズマブ(ゾレア)」で、この治療も当院で行っている花粉症の治療です。最後の注射はステロイドの注射ですが、副腎皮質ステロイド(ケナコルトA)を筋肉注射する方法で、こちらは当院では行っておりません。厚生労働省、日本耳鼻咽喉科学会、日本アレルギー学会などでリスクが高い治療ということで非推奨となっておりますので、医療機関では簡単に手に入り、手技も難しくない治療ですが、行っている医療機関はごく限られています。
花粉症に対するアレルゲン免疫療法
アレルゲン免疫療法はスギのエキスを体の中にいれることによって、スギ花粉に対して異常な免疫反応を起こしてしまったという花粉症の状態を正常な免疫機能に戻そうという治療法です。皮下法と舌下法の2種類の方法で行われています。
最近では舌下免疫療法という治療法を耳にしたことがあるかもしれません。シダキュアというスギ花粉エキスの錠剤を舌の下(裏)から投与することによるアレルゲン免疫療法というのが舌下免疫療法になります。
予断になりますが、舌下は「ぜっか」と読みますが、「ぜっか」を間違えて変換すると舌禍となる場合がありますのでご注意ください。
当院でも行っている治療法ではありますが、この治療法は3年ほど前から保険適応されて開始された治療法です。
実はこの舌下免疫療法の元になった治療法が皮下免疫療法になります。スギ花粉症に対する皮下免疫療法は30年以上も前からある治療法なのですが、できる病院が限られていたためにあまり多くの病院で行ってませんでした。もちろん保険適応のある治療法です。
皮下免疫療法というのは皮下法によるアレルゲン免疫療法ということで、注射でスギエキスを徐々に増やしてながら体に入れていくことによってうまくいけば治癒まで行ける可能性がある治療法です。
「注射で行うこと」と「まめに通院する必要があること」がハードルとなってあまり普及しなかったのかもしれません。当院では皮下免疫療法も舌下免疫療法もどちらも行っております。いずれの治療法も少なくとも3~5年は治療期間が必要な治療法ですので、それぞれの特長を知って、続けやすい治療方法を選んでもらうことが大切です。
アレルゲン免疫療法の詳しい内容はHPの アレルゲン免疫療法(皮下・舌下免疫療法) をご参照ください
花粉症に対する抗IgE抗体製剤(ゾレア)による治療
花粉飛散期になってからできる治療は薬による治療しかありません。すなわち症状を緩和する対症療法のみになります。
基本的には抗ヒスタミン薬といわれるアレルギーの薬を中心に治療が行われます。薬の種類によっては「強いアレルギーの薬」などと表現されることも多いですが、強弱よりも「あう、あわない」ということの方が意味合いとして多いです。ここでの「あう、あわない」とは二つの意味があり、自分と薬の相性という意味と薬とアレルゲンの状況との相性という意味があります。自分と薬との相性は効果に関してというより、眠気などの副作用の面での相性、と言えるでしょう。効果に関しては、花粉症の場合、今の花粉の飛散量との相性という面が強くて、花粉が多く飛べば効果は弱くなり、花粉が少なければ効果が強くなることが前提となる治療となります。
マスクなどの花粉対策をしっかりと講じて花粉に暴露されることを少なくすることは、抗ヒスタミン薬の効果を高くする意味でも大切です。
それでも十分な効果が得られないような重症スギ花粉症である場合には抗IgE抗体製剤であるオマリズマブ(ゾレア)が適応となります。今までの抗ヒスタミン薬とは違った機序で効果を発揮する薬です。しかし、症状の緩和を目的とした対症療法であることには変わりがありません。オマリズマブ(ゾレア)の適応に関する注意点としては「重症」「スギ花粉症」に対する治療薬であることです。スギ花粉症ではないアレルギー性鼻炎の方は適応とはなりません。
オマリズマブ(ゾレア)の適応にはいくつかの使用条件(スギ花粉のピークと新しい花粉症の薬~ゾレア~)がありますので、ご相談ください。
花粉症に対するステロイド注射
「1回の注射で花粉症がよくなる」などと、言われてたりするものはこの治療である可能性があります。
この治療方法は非常に簡単な方法にもかかわらず、実は現在推奨されていません。以下のような問題があるからです。
この治療の問題点は「ステロイド注射と知らずに治療されていること」、「他に治療法と比べずに1回ということだけで選んでしまっていること」であります。
1回の注射で2~3ヶ月効果が持続するということは副作用(目には見えないものも含めて)なども長期間に及ぶ可能があるといことです。また、注射するということは全身に影響が及ぶということであります。毎年、行っている人には月経の異常などを認める場合がありますので非常に注意が必要になります。
あくまでも、ステロイドは非常に効果的な薬であります。ただ単にステロイドということだけで避けることも良いことではないと考えます。大切なのは「投与方法、ステロイドの強さ、投与期間」を考えて使うことが重要な薬になります。たとえば喘息の人のステロイド吸入は非常に少ない量のステロイドを気管からのみ吸収させるということによって全身への副作用をほとんど出ないようにしてます。またアトピー性皮膚炎に対する軟膏なども5段階(非常に強い、かなり強い、強い、中ぐらい、弱い)のランクを塗る期間を考えて副作用が出ないように使用します。副作用が少なくなるようにわざと強い軟膏を短期間使用することも長い目で見ればステロイドの量を減らすために必要となってきます。
この治療法の問題点はステロイドという薬を使用することではなく、長期間続くタイプのステロイドを注射で投与するというところに問題があるということです。残念ながら花粉症が治ることもありません。
また、本来ならレーザー治療やアレルゲン免疫療法などの治療も含めて考える場合でも、「1回」という魅力的な言葉に引き寄せられてしますことにも注意しなければなりません。しっかりとその治療の欠点を確認をした上で治療法を決定しましょう。
以上のことから、“当院では花粉症に対するステロイド注射は行ってない”のです。
繰り返しになりますが、ステロイドはアレルギーの治療によく使われる薬になります。その特徴を考えて、上手く使えば非常に有効な薬です。
この記事を書いた人
わしお耳鼻咽喉科 院長 鷲尾 有司
地域の皆様に少しでも貢献したいという思いを抱き、2011年11月11日に「わしお耳鼻咽喉科」を開院。
アレルギー治療を得意とし、「最新の正しい医療情報を共有して一緒に考える医療の提供」「できるだけ薬に依存しない治療法の提案」「患者様の負担を減らすための各種日帰り手術の提供」をなどを進める。
子どもたちの未来のために、“まちのお医者さん”をめざしています。