ダニがかかわる病気について ~秋はダニに注意~
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秋になるとくしゃみや鼻水、咳などが出ることがありませんか?
朝、晩が涼しくなって鼻水や咳が出るので「カゼをひいた」といっている場合もあるかもしれませんね。もしかしたら、このカゼはアレルギーのことを言っているのかもしれません。また、「季節の変わり目に調子が悪くなりやすい」などもアレルギーのことを言っているのかも・・・
このグラフはアレルギーの代表疾患である喘息を引き起こしやすい誘因を示したものです。秋に注意が必要な誘因が多いのが特徴です。
ではどうして秋になるとアレルギーが出るのでしょうか?
気温差が起こりやすかったり、台風による気圧差があったり、秋の花粉が飛んでたり、いろいろな原因が考えられますが、その原因の一つにダニの存在があります。これからそのダニについてみてみましょう。
ダニに関係するアレルギー
ダニにもたくさん種類があるのですが、病気にかかわるダニを大きく分けると家の中にいるダニと家の外にいるダニに分けられます。屋外にいるダニの多くはマダニで、屋内のダニはヒョウヒダニ(チリダニ)、コナダニ、ツメダニなどです。なかでもアレルギーの原因になりやすいダニは室内に生息するヒョウヒダニ(チリダニ)です。
【ダニアレルギー】
よく使われる表現にハウスダストという言葉があります。まずはハウスダストとダニの関係を整理しておきましょう。
ハウスダストは室内塵という意味で「家の中のほこり」です。ハウスダストの中には屋内にいるダニが含まれており、その他に動物の毛やフケ、真菌などのカビ類、ユスリカ、ゴキブリなどの昆虫類などを合わせての総称になります。
アレルギーの検査ではハウスダストとヤケヒョウヒダニもしくはコナヒョウヒダニを検査されることが多いと思います。ハウスダストとダニの両方が陽性であれば、まずはダニアレルギーとして考えます。少ないケースですが、ハウスダストが陽性でもダニが陰性であれば、動物のアレルギーなどダニ以外のハウスダストを疑います。
また、ホコリという言葉には土ぼこりや砂ぼこりといった外での意味もありますが、もちろん室内にあるダニなどは含まれていませんのでアレルギーの原因にはなりません。しかし、刺激物という意味では鼻の症状や呼吸器症状を誘発する可能性があります。
ダニが原因のアレルギーで、くしゃみ・鼻水・鼻づまりなどの鼻症状が出れば通年性アレルギー性鼻炎(このことを省略して鼻炎と呼んでいることが多いです)、眼のかゆみなどの眼症状があればアレルギー性結膜炎、咳や喘鳴などの呼吸器症状が出れば気管支喘息、皮膚のかゆみなどの皮膚症状がアトピー性皮膚炎と診断されています。
ダニの種類の中で主にヒョウヒダニ(ヤケヒョウヒダニ、コナヒョウヒダニ)が原因となります。ヒョウヒダニ(チリダニ)は0.3~0.4mmぐらいの大きさで、主にベッド、枕、布団などの寝具やソファー、カーペットなどに生息しており、ヒトや動物のフケやアカなどを餌にしています。ヒョウヒダニの死がいやフンが空中に舞ったものによってアレルギー症状が出ます。
では、ヒョウヒダニの死がいやフンが一番多い時期はいつでしょう?
高温多湿を好むヒョウヒダニは、梅雨から夏にかけての6~8月に最も多くなります。しかし、ダニの死がいやフンは時期を遅らせて9~11月に最も多くなります。
一年の中で最もヒョウヒダニが多くなるのが秋なので、秋にはアレルギーに注意が必要なのです。
秋になるとよく鼻水やくしゃみ、咳が出て、のどの痛みや熱がなければ、アレルギーを疑ってみましょう。そのような場合はブタクサやヨモギなどの秋の花粉に加えて、ヒョウヒダニを調べてもらいましょう。まずは診断をしっかりつけることが第一です。
【パンケーキ症候群(経口ダニアレルギー)】
パンケーキシンドローム(症候群)という病気を聞いたことがありますか?
パンケーキを食べた後に蕁麻疹や呼吸困難などアナフィラキシー症状やアレルギー症状が起こることです。お好み焼きを食べてからアレルギーが起こったということも多いです。粉物を食べた後だから「小麦のアレルギーかな?」っと疑いたくなりますよね。もちろん、小麦アレルギーの可能性も考えなければなりませんが、普通にうどんやパンを食べていたりするのであれば、小麦アレルギーの可能性は低いでしょう。
では何のアレルギーなのでしょうか?
実はダニを食べてしまうことによっておこるアレルギーです。パンケーキ粉やホットケーキ粉、お好み焼き粉にはダニが繁殖しやすいのです。特に、粉の中のうまみ成分が大好きなチリダニ(ヤケヒョウヒダニやコナヒョウヒダニ)やコナダニ(アシブトコナダニやケナガコナダニ、サヤアシニクダニ)が繁殖していることが多いです。
まずはアレルギー検査で診断をしてもらいましょう。
すでに検査でダニアレルギーの診断をされている人はパンケーキ症候群の可能性がありますので注意が必要です。
治療はただ一つ、ダニが繁殖したパンケーキ粉やお好み焼き粉を使わないことです。
ダニが繁殖していなければ大丈夫なので、①密閉して冷蔵庫(高温多湿でないところ)で保存する。②開封後、使い切る。のどちらかをすれば問題ありません。パンケーキ屋さんやお好み焼き屋さんなどお店で食べる場合には、長期保存されてないお店であれば、問題ないと思われます。
【牛肉アレルギー】
牛肉アレルギーとダニがどうして関係するのでしょうか?
実は牛肉アレルギーの人はマダニに何回か刺された人が多いことが分かっています。マダニの唾液に含まれる成分と牛肉に含まれる成分が同じであるために、何回かマダニに刺された人でマダニの唾液に対するアレルギーが起こってしまった人が牛肉アレルギーになるのではと考えられています。
また、牛肉アレルギーは抗悪性腫瘍薬のセツキシマブや他の哺乳類肉(特に4足の哺乳類)などとも関連が報告されており、さらに血液型の中でA型・O型の人に多いという報告もあります。
まだまだ解明されていない点もありますが、いずれにしてもマダニにかまれないように対策をしておいて損はないでしょう。
ダニが引き起こすアレルギー以外の病気
【マダニ刺症】
マダニも10~11月が本格的な活動期になります。マダニはヒョウヒダニなどよりは大きくて、数mmぐらいのサイズのために目で見ることができます。特徴として、吸血性がありますが刺されてもかゆみを伴わないことが多いので、マダニに刺されたことに気が付かないのが多いことです。
刺されたことに気が付いた時、無理にとるとマダニの口が残ってしまう場合があります。自分で取らずに病院(皮膚科)で取ってもらいましょう。
まずは屋外で刺されないように、マダニがいそうなところでは皮膚の露出しないようにしたり、上手く虫よけを使ったりしましょう。
マダニ以外にも屋内にいるツメダニ(吸血しない)やイエダニ(吸血する)も刺されることがあります。
【マダニ媒介性感染症】
マダニに刺されることによって、もう一つ問題があります。マダニ媒介性感染症です。マダニの中にいる病原体が刺すことで体内に入って病気を引き起こす場合です。リケッチアという病原体によって発症する日本紅斑熱やブニアウイルス(SFTSウイルス)によって生じる重症熱性血小板減少症候群(SFTS)などに注意が必要です。
日本紅斑熱の経過はリケッチアを持っているマダニに刺されてから数日後に高熱・発疹が出ます。また、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)もマダニに刺された後に高熱が出て、下痢や嘔吐などの消化器症状が出ます。血液検査を行うと血小板の低下などがみられるため重症熱性血小板減少症候群という病名がついています。特にSFTSは命の危険もある感染症ですので注意が必要です。どちらもマダニに刺された自覚はないかもしれませんが、刺し口が疑われるようであれば、病院(皮膚科)で見てもらいましょう。
https://web.pref.hyogo.lg.jp/kf16/sfts.html
マダニ媒介性感染症もダニに刺されなければ大丈夫です。キャンプやBBQ、犬の散歩など屋外でのダニ対策が最も有効となります。
他にもダニによる皮膚病などもあり、身近にいるダニがいろいろな病気の原因になることは知られています。
どのダニも全くいなくするということは難しいです。自分のこと、ダニのこと、ダニの関係する病気のこと、を理解して上手にダニ対策を立てましょう。
参考文献
1)伊藤浩明ほか:食物アレルギーのすべて ー基礎から臨床・社会的対応までー;診断と治療社.牛肉アレルギー p196-200
2)島野智之・高久 元ほか:ダニのはなし -人間との関わりー;朝倉書店
3)夏秋 優:第35回日本臨床皮膚科医会③ シンポジウム19-2 マダニ刺症の臨床.マルホ皮膚科セミナー 2019-11-11
4)アース製薬:害虫駆除なんでも事典 https://www.earth.jp/gaichu/knowledge/dani/
この記事を書いた人
わしお耳鼻咽喉科 院長 鷲尾 有司
地域の皆様に少しでも貢献したいという思いを抱き、2011年11月11日に「わしお耳鼻咽喉科」を開院。
アレルギー治療を得意とし、「最新の正しい医療情報を共有して一緒に考える医療の提供」「できるだけ薬に依存しない治療法の提案」「患者様の負担を減らすための各種日帰り手術の提供」をなどを進める。
子どもたちの未来のために、“まちのお医者さん”をめざしています。