コロナとアレルギー
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皆さんが頑張って行った自粛の効果も徐々に見える形で出てきて、コロナウイルス感染症が減少し、兵庫県における緊急事態宣言が解除されました。しかし、残念ながら、新型コロナウイルスがいなくなったわけでもありません。収束しつつありますが、終息していません。今後、来るかもしれない第2波、第3波に対しての準備をしておかないといけないのです。
では、どんな準備しておいた方が良いのでしょう。まずは敵(コロナウイルス)を知っておきましょう。もう一つは味方(自分)を知っておくことも大切です。
そこで、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)とコロナとよく似た症状の風邪とアレルギーとの関係を整理しておきましょう。
風邪とアレルギー
風邪という言葉には2つの意味がある
以前のブログでもお話ししましたように、風邪という言葉には2種類の意味があるのです。
狭い意味での風邪はウイルス性上気道炎という意味になります。しかし、風邪は、鼻やのどの調子が悪い、もしくは、体調が悪い、というぐらいの大雑把な意味で使っていることが一般的には多いのではないでしょうか。医療者でも広い意味での風邪の方が多く使われていると思います。
使われている風邪という言葉は広い方、狭い方のどちら意味で使われているのか?を間違えてしまうと混乱してしまうかもしれませんね。
花粉症・アレルギーにも広い意味と狭い意味がある
花粉症も、アレルギーも、皆さんが普段からよく耳にする言葉ですよね。聴きなじみのある言葉のためにイメージのみで理解していることも多いかと思います。そこで言葉を整理するために花粉症という言葉にもアレルギーという言葉にも広い意味と狭い意味があるということを説明します。
花粉症というとまず最初に連想するのは「スギ花粉症」でしょう。もちろん、日本で一番多い花粉症はスギです。春に花粉症の症状があればスギ花粉症を第一に疑います。では、ここで春というのは何月を指しているのでしょうか?
3~4月ぐらいを春と言っていると思いますが、花粉症を考える時には3月はスギ花粉症、4月はヒノキ花粉症を疑います。しかし、スギはヒノキ科の樹木ですので、スギとヒノキは家族みたいな関係になります。そのためにスギ花粉症とヒノキ花粉症を両方持っていることは非常に多く、まとめてスギ・ヒノキ花粉症といい、狭い意味で花粉症と省略しています。
もちろん、スギ・ヒノキ以外にも花粉症の原因になるものはたくさんあります。カモガヤやオオアワガエリなどのイネ科やブタクサ、ヨモギなどのキク科が有名なスギ・ヒノキ以外の花粉症を引き起こす花粉です。3月、4月以外に花粉症の症状があればスギ・ヒノキ以外の花粉症を疑う必要があります。
花粉症はあくまでも花粉によるアレルギーのみを意味する言葉ですので、花粉以外のアレルゲン(アレルギーの原因物質)に使ってしまうと誤解してしまう恐れがあります。例えば、ハウスダストやダニによるアレルギーです。大人ではアレルギーの原因で一番多いのは花粉になりますが、小児では最も多い気道アレルギー(食物以外で)はハウスダスト・ダニです。ハウスダスト・ダニが「1年中ある=1年中同じぐらいいる」というイメージになってしまうためにハウスダスト・ダニアレルギーが花粉症という表現になっている場合があります。実はハウスダストの中で一番の原因であるヒョウヒダニは1年の中で秋に最も多くなります。すなわち、秋に花粉症の症状があればスギ・ヒノキ花粉症以外の秋の花粉症もですが、花粉症以外のアレルギーであるダニアレルギーも疑わないといけません。
さらに広い意味でのアレルギーには特異的なアレルギー(狭い意味でのアレルギー)以外に非特異的な刺激による過敏症も含まれています。特異的と言うのはダニやスギ花粉などアレルギーの原因が特定できているものです。非特異的刺激というのは、例えば、黄砂やpm2.5、温度差など誰でも影響が出るものによる刺激です。刺激が強ければどんな人でも影響がありますが、少しの刺激でも敏感・過敏な人は反応してしまうのです。黄砂の場合、たくさん飛散すればすべての人に影響を及ぼしますが、少量の飛散であれば敏感な人にしか症状が出ないことになります。
新型コロナと風邪
コロナウイルスは風邪の原因ウイルス
ここでの風邪は狭い意味である風邪(=ウイルス性上気道炎)についての説明になります。風邪の原因ウイルスとしては下の表で示しましたようにたくさんあるのですが、有名なものがライノウイルスとコロナウイルスです。この2つのウイルスで風邪の半分ぐらいを占めてしまいます。
特徴的な症状や流行性がなければ、インフルエンザやプール熱の原因であるアデノウイルス、手足口病・ヘルパンギーナの原因であるエンテロウイルスもウイルス上気道炎、すなわち風邪という診断になりますし、乳児で注意が必要なRSウイルスや小児で注意が必要なヒトメタニューモウイルスの場合でも症状が軽かったり、大人であったりすれば、風邪という一括りの中に入ってしまいます。
風邪は一般的には自分自身の免疫力で1週間ぐらいで治ってしまいます。インフルエンザウイルス以外のウイルスには現在のところ特効薬は存在しません。自分の免疫力でほとんど重症化することなく治癒するので必要がないとも言えます。インフルエンザであっても経過が良ければ、必ずしも検査や投薬治療が必要なわけではありません。風邪は特別な症状や状況がなければ「検査も治療も必要でない病気」であり、風邪の原因ウイルスである今までのコロナウイルスは検査で検出する必要がない感染症でありました。
コロナウイルスには7種類ある
コロナウイルスには60種類以上あるといわれていて、多くは動物のウイルスです。その中で、新型コロナウイルス(SARS-CoV2)が出てくるまで、ヒトからヒトにうつすコロナウイルスは6種類ありました。4種類は風邪(狭い方)の原因ウイルスであり、あとの2つはSARS(重症急性呼吸器症候群)とMERS(中東呼吸器症候群)です。SARSやMERSはニュースなどで聞いたことがあるかもしれませんが、今まで日本国内での発症は報告されていません。そのうち、SARSは2004年以降、世界でも報告がない状態であり、WHOからも終息宣言が出されています。MERSは現在も中東付近では報告があります。
新型コロナウイルスはどうなっていく?
今後、新型コロナウイルスはどうなっていくのでしょう。現状では2つのパターンが想像されます。
一つ目のパターンはSARSのように終息する場合です。世界でのSARS感染者は8000~9000人程度(WHO報告)であり、1年足らずで終息出来ました。日本での感染者がいなかったためにいつの間にか終息していたのです。
一方で、現在の感染者数が世界で500万人を超えてしまっている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)とは比べものにならないほど感染者が少なかった(十分多いのですが)ので、SARSは終息できたとも言えるかもしれません。となると、終息は難しい、仮に終息できたとしても、世界的な感染の広がりを考えると、かなりの年月がかかる可能性が高いでしょう。
二つ目のパターンは5種類目の風邪のウイルスとなる場合です。この状況になるには多くの人が一度感染することによって、集団免疫を得ること、とその結果で重症化のリスクが他のコロナウイルスと同じぐらいになること、で風邪の一つになるでしょう。場合によっては、定期的なワクチンと抗ワクチン薬でインフルエンザのような共存する形になるかもしれません。
新型コロナとアレルギー
初夏のアレルギーはイネ科と黄砂・pm2.5
狭い意味での花粉症はスギ・ヒノキ花粉によるものであり、ゴールデンウィークを過ぎたころには花粉飛散終了となって、落ち着ているでしょう。しかし、まだアレルギー症状がある、もしくは続いている人の原因は何でしょう?
ここで疑うのは、①広い意味での花粉症 ②花粉以外のアレルギー ③広い意味でのアレルギー の3パターンです。
初夏にアレルギー症状があれば、具体的に疑うのは、①この時期に多い花粉症=イネ科の花粉症 ②1年中、気を付けるアレルギー=ハウスダスト・ダニ ③この時期に飛んでくる刺激物=黄砂・pm2.5 となります。もちろん複数の原因が混在している場合も考えられます。
新型コロナの症状は風邪やアレルギーとよく似ている
新型コロナウイルス感染症の症状は、残念ながら「この症状があればコロナ」といった特異的な症状はなく、多彩なものになります。ニュースなどでも嗅覚障害や味覚障害も取り上げられていますが、確かに新型コロナウイルスでは多い傾向にあるかもしれません。しかし、アレルギーや花粉症でも風邪でも現れることのある症状です。コロナに感染した方でも「元々鼻炎があるのでわからなかった」という話が出ています。
また、咳や息苦しさもアレルギー性の咳である気管支喘息・咳喘息・アトピー咳嗽などと混ぜってしまえば、アレルギーだけの症状なのか? アレルギー+風邪なのか? アレルギー+コロナなのか? 一層わからなくなってしまいます。
元々風邪の症状と似ているコロナの症状に、さらによく似ているアレルギーの症状が混ざってしまえば判断が余計に難しくなります。
コロナ疑いのない時にこそ、アレルギーの診断と治療を
アレルギーの治療を行う上で欠かせないことはアレルゲン(アレルギーを引き起こす原因物質)が解ることです。このことは敵を知ると同時に自分を知るということになります。すなわち、自分の体質を知るということです。
その第一歩はアレルギー検査になります。一般的には血液検査となりますが、検査結果を聞きに来ることができない場合や採血が苦手な子どもさんの場合は簡易アレルギー検査(アレルギー検査について♬)もあります。あくまでも簡易ですので、可能であれば標準的な検査の方がいいでしょう。もし血液検査で陰性であっても、症状的にアレルギーが疑われるのであれば、皮膚テスト(プリックテストなどで、パッチテストではありません)を行います。
症状と検査によって診断をつけることが大切です。
その上で、自分のアレルギーをしっかりと理解してコントロールをしておくことが、コロナの第2波が来た時に、判断をしやすく重症化のリスクを下げることにつながります。
もちろん、自粛の時に学んだことを普段から実行して第2波が来ないようにすることが最も大事です。「また緊急事態宣言」なんてことになれば大変です。
この記事を書いた人
わしお耳鼻咽喉科 院長 鷲尾 有司
地域の皆様に少しでも貢献したいという思いを抱き、2011年11月11日に「わしお耳鼻咽喉科」を開院。
アレルギー治療を得意とし、「最新の正しい医療情報を共有して一緒に考える医療の提供」「できるだけ薬に依存しない治療法の提案」「患者様の負担を減らすための各種日帰り手術の提供」をなどを進める。
子どもたちの未来のために、“まちのお医者さん”をめざしています。