耐性インフルエンザウイルスとゾフルーザ ~19/20シ-ズンのインフルエンザ治療~
全国的に今年は例年より1ヶ月早くインフルエンザの流行期に入っていると言われていましたが、あまり関西では実感がない感じでありました。
しかし、11月末あたりから当院でもインフルエンザの患者さんが徐々に増えてくるようになってきました。また、当院の近隣小学校などでも学級閉鎖のところも出てきているようです。
これから本格的なインフルエンザの流行期に入ったと言えるでしょう。まずはインフルエンザにかからないことが一番です。しっかりと対策を立てて予防しましょう。
西宮市、兵庫県の情報は次のサイトから流行状況の確認ができます。参考にしてみてください。
西宮市 ⇒ https://www.nishinomiya.hyogo.med.or.jp/oshirase/kansen.html
兵庫県 ⇒ http://www.hyogo-iphes.jp/kansen/infectdis.htm
もしもインフルエンザにかかってしまったら、できるだけ早く治療を開始することが早く良くなることにつながりますので、周りの情報をできるだけ集めて、インフルエンザかも?と思ったら早めに受診しましょう。
インフルエンザウイルスの耐性化
そのインフルエンザの治療薬についてですが、昨シーズンから新薬のゾフルーザが加わりました。まだ1シーズンしか経過してていない薬ですが、1回で済む内服薬という利便性の高さからして多くの医療機関より処方されており、いきなり2018/19シーズンで最も多く処方された抗インフルエンザ薬になりました。
ところが、発売当初より案じられてましたインフルエンザウイルスの耐性化という問題が2018/19シーズンの後半より早くも出てきたのです。耐性化というのは、細菌やウイルスは少しずつ変化をしながら生きているので、簡単に言うと薬が効かなくなるように変化しているということです。最終的には耐性化したインフルエンザウイルスのみが生き残る形になります。
昨年はA(H1N1)とA(H3N2)の2種類のA型インフルエンザが流行しました。そのインフルエンザウイルスのうち、ゾフルーザ(バロキサビル)の耐性ウイルスがA(H1N1)には1.7%、A(H3N2)には9.5%に認められたと国立感染症研究所から報告されました。同時にA(H3N2)は耐性の報告はありませんでしたが、A(H1N1)はタミフル(オセルタミビル)とラピアクタ(ペラミビル)で1%の耐性の報告されています。
国立感染症研究所ホームページ ⇒ https://www.niid.go.jp/niid/ja/influ-resist.html
ということはゾフルーザ以外でのいずれの抗インフルエンザ薬でも耐性が出る可能性があるということになります。ただし、問題はゾフルーザは発売されてから(使用されてから)1年しかたっていないのに最も耐性化率が高くなっていることです。タミフルの発売は2001年ですので、単純に言えば、18年間で1%の耐性化率ということです。ということは圧倒的にタミフルよりゾフルーザのほうが早く耐性化がみられることが一番問題となります。
中でも12歳未満の小児に対しては12歳以上に対する投与よりも耐性ウイルスの出現が多いとの報告もあり、日本感染症学会、日本小児科学会から「12歳未満にはゾフルーザの投与を推奨しない」との提言がなされています。
日本感染症学会ホームページ ⇒ http://www.kansensho.or.jp/modules/guidelines/index.php?content_id=37
日本小児科学会ホームページ ⇒ http://www.jpeds.or.jp/modules/guidelines/index.php?content_id=2
もちろん、副作用が出やすいということではありませんし、全く効果がないということでもありませんので、ほかの選択肢がないのであればゾフルーザを考えましょうということです。「インフルエンザなら、なんでもかんでもゾフルーザ」に気を付けましょうということです。
少しずつ変化をしながら生きているウイルスや細菌は耐性という問題に気を付けなければなりません。2000年に初めて出てきたリレンザという抗インフルエンザ薬から約20年の間に点滴薬ラピアクタも含めて5種類が出てきましたが、新薬が出来るスピードよりもっともっと速くインフルエンザウイルスは変化しているのです。
ノイラミニダーゼ阻害薬(ゾフルーザ以外の抗インフルエンザ薬)と違った唯一の機序であるゾフルーザはできるだけ耐性が出来ないように気をつけながら、ノイラミニダーゼ阻害薬が効果がなかった場合や治療方法がゾフルーザでなければならないに場合に大切にとっておきたいですね。
抗インフルエンザ薬の選び方(2019/20シーズン)
では具体的どのように抗インフルエンザ薬を選べばよいのでしょうか?
基本的に治療の仕方が大きく変わったわけではありません。まずは「吸入薬がうまくできるか?」が一つ目の目安になります。これは日本小児科学会のインフルエンザ治療の提言では5歳以上で吸入できるか検討しましょうということになっていますが、経験上、普段からに吸入をしているなどでない限り、小学校以上のお子さんが適応になることが多いようです。
ということは、幼稚園・保育園までの未就学児はタミフルのドライシロップ(粉薬)だけになります。また、現状ではゾフルーザも錠剤しかありませんので、錠剤がのめないお子さんには適応になりません。
次に12歳未満の小学生の場合です。この年齢でもまずは吸入が不得意であればタミフルになります。体重によりますが、カプセルは体重40kgぐらい以上が対象になります。吸入が可能であれば、タミフル、イナビル、リレンザの中からそれぞれの特徴をから選びます。1回のみはイナビルは利便性が高い薬なります。しかし、他の抗インフルエンザ薬でもいえるのですが、効果が期待通りでなかった場合に基本的には薬を追加したり、変更したりしないことを頭に入れて使用することになります。タミフルやリレンザは1日に朝夕2回を5日間投与します。イナビルより投与回数が多いですが、5日間治療している治療をしているという実感があるとも言えるでしょう。
また、吸入式のイナビルは1回であるために慣れていなければうまくできたかどうか?が不安になるかもしれません。(そのあたりからゾフルーザが好まれて処方されていたのですが・・・)
以上のことを理解して納得できるものを選びましょう。
最後に12歳以上の人に対する薬の選び方です。ゾフルーザの耐性ウイルスへの考え方からすれば、小学生の選び方と大きく変わらないといけるかもしれません。まずはノイラミニダーゼ阻害であるタミフル、イナビル、リレンザから選ぶことになります。以前はタミフルが10歳代に対して推奨されていませんでしたが、現在は添付文書上もその制限はなくなっています。ということは現時点では抗インフルエンザ薬の5種類(タミフル、リレンザ、イナビル、ゾフルーザ、ラピアクタ)は効果も副作用も明らかな差がないのです。吸入の手技が難しくて、タミフルに副作用がある場合などがゾフルーザの適応になると言えるでしょう。
ちなみにインフルエンザ時の異常行動は抗インフルエンザの薬を使わなくても報告がある症状ですので、抗インフルエンザ薬の使用有無に関係なく注意しましょう。
もう一つの抗インフルエンザ薬であるラピアクタは点滴で投与になります。作用機序はタミフル、リレンザ、イナビルと同じノイラミニダーゼ阻害薬です。基本的には重症のインフルエンザの人や他の薬を使うことが出来ない人が対象になります。ですので、よほどのことがなければ他の薬から選びましょう。
最後に、インフルエンザは薬を使わなくても治る病気でもあります。必ず抗インフルエンザ薬を使わなくてはならないことはありません。症状・状況によっては抗インフルエンザ薬を使わないという選択肢も含めて、インフルエンザに対する治療戦略を立てましょう。
わしお耳鼻咽喉科ではすべての抗インフルエンザ薬が処方可能です。相談しながら処方を決めておりますので、お気軽にご相談ください。
この記事を書いた人
わしお耳鼻咽喉科 院長 鷲尾 有司
地域の皆様に少しでも貢献したいという思いを抱き、2011年11月11日に「わしお耳鼻咽喉科」を開院。
アレルギー治療を得意とし、「最新の正しい医療情報を共有して一緒に考える医療の提供」「できるだけ薬に依存しない治療法の提案」「患者様の負担を減らすための各種日帰り手術の提供」をなどを進める。
子どもたちの未来のために、“まちのお医者さん”をめざしています。