「風邪か?アレルギーか?」と「風邪も、アレルギーも」
目次
最近になって朝、晩の気温が下がってきましたね。寒暖の差が大きくなっています。
「風邪ひいた」という人が多くなっているのでないでしょうか?
「風邪をひく」というのはよく使う表現ですよね。ではどんな時に使うのでしょうか?
鼻が出たり、咳が出たり、熱が出たり、のどが痛くなったり、などなどの症状があるときに使いますね。
ここで少し「風邪」について整理をしてみましょう。
風邪って何だろう?
「風邪ってなんでしょう?」って改まって聞かれると答えにくいですね。実はそれは医者も同じなのです。
そこでちょっと風邪について考えてみましょう。
実は風邪には二つの意味があります。
➊ウイルス性上気道炎(狭い意味での風邪)
❷症状を表す疾患でいろんな病気の集まりのこと(広い意味での風邪)
皆さんはどちらの意味で使っているのでしょうか?
➊の意味は「ウイルスが原因」で「鼻やノドに炎症」が起こるということです。医学書ではこのウイルス性上気道炎のことを風邪(症候群)としていることが多いです。ではどのようにしてウイルス性上気道炎は診断するのでしょうか?
ウイルスが原因ってどうすればわかるの?
風邪(ウイルス性上気道炎)の原因となるウイルスは季節によっても変わりますが、ライノウイルス、コロナウイルス、パラインフルエンザウイルス、RSウイルス、インフルエンザウイルス、アデノウイルスなどの順で多いと言われています。
「ええっ、RSウイルス、インフルエンザウイルス、アデノウイルスも風邪なの」と思った人もいるかもしれません。実は症状が軽ければ風邪(ウイルス性上気道炎)の中に入っているのです。
診断としてはRSウイルス、インフルエンザウイルス、アデノウイルス、ヒトメタニューモウイルスは迅速簡易抗原検査で判断することが多いですが、それ以外のウイルスは血液検査でウイルス性かどうか判断します。(血液検査ではどのウイルスかは分かりません)
ただし、迅速抗原検査も血液検査も風邪の疑いがある人の全員にすべての検査をすることはあまり有意義ではありませんから、年齢や重症度、周りでの流行などを考慮してタイミングを図りながら行うことが多い検査になります。ですから、検査なしで風邪と診断した場合は「ウイルス性と思いますが・・・」ということになります。
その検査以外でウイルス性を疑うポイントがあります。それは症状です。
①鼻や咳などいろんな症状がある
②症状が変化する
③1週間から10日ぐらいで軽快し、繰り返さない
ということは「2週間前からずうっと鼻が出る」「1か月前から咳だけが続いている」などの症状はウイルス性ではないかもしれません。
上気道炎って?
病院などの診断で「〇〇炎」って言葉を耳にしたことはありませんか?
例えば、「肺炎」「気管支炎」「中耳炎」「副鼻腔炎」などです。これは「肺に炎症がある」、「気管支に炎症がある」、「中耳に炎症がある」、「副鼻腔に炎症がある」という意味で炎症の場所を表す病名になります。ということは上気道炎というのは「上気道に炎症がある」という意味です。
では上気道とはどこでしょう?簡単に言うと鼻・口から喉の奥までを指します。
鼻・口から肺までの空気が通る道を気道と言います。喉の奥までを上気道と気管から肺までを下気道と上下に分けています。
上気道の専門である耳鼻咽喉科では鼻・喉(口腔・咽頭)と喉の奥(喉頭)を診ることができますので、そこに炎症があるかどうかが視診で診断することができます。
結局、風邪って?
しかし、多くは「のどが痛くて、鼻や咳が出て、時に熱が出るなど」の症状があれば「風邪をひいた」といいますね。
ということは❷の意味で使っていることの方がよくあるのではないでしょうか。
これはウイルス性上気道炎以外の病気であっても風邪とよく似た症状(鼻や咳が出て、のどが痛くて、熱などある)があれば、なんとなしに風邪と呼んでいるということになります。
(場合によっては単に体調が悪いということを風邪と呼んでいるかもしれません)
なかなか病院でも風邪(ウイルス性上気道炎)とキチンと診断することは難しいのですから、医者の診断であっても風邪の意味はウイルス性上気道炎ではなくて
風邪っぽい症状がある色んな病気の集まりということのほうが多いのです。ここに風邪の診断で???になるポイントがあるのです。
例えば、熱が出て喉が痛くなる扁桃炎や鼻水が出る副鼻腔炎なども風邪(ウイルス性上気道炎)ではないかもしれませんが、風邪(症状的)と言われることがあるのです。
また、インフルエンザやRSウイルス感染症、溶連菌感染症なども風邪(症状的)と診断があっても間違いではないことになります。
風邪は「風邪(ウイルス性上気道炎)です」という意味より「風邪としてしばらく経過を診ましょう」ということです。
風邪(ウイルス性上気道炎)とは少し違うかなと判断すれば検査などを追加して、診断名が変わることがよくある話になります。
(例えば「風邪と言われたのに溶連菌感染症だった」などなど)
病院では2つの意味の風邪が混ざって話をしていることが多いので、今はどちらの意味で使っているかを整理すると分かりやすくなります。
アレルギーの症状は?
ではアレルギーにはどんな症状があるのでしょうか?
アレルギーにもたくさん種類があるのでここでは吸入性アレルゲンによる気道アレルギーを中心に考えてみましょう。
吸入性アレルゲンとは空中に浮遊していて吸い込むことによって気道にアレルギーを引き起こす原因のことを言います。例えば、花粉やダニ(ハウスダスト)などが主な吸入性のアレルゲンになります。中でも秋に多いのが(ヒョウヒ)ダニになります。ダニは1年中あるのですが、夏場に増えた生ダニが秋になって死んでいくので死ダニがもっとも秋に多くなるのです。
さらにダニの死がいやフンは花粉に比べて小さいために気道の奥(下気道)にまで入り込みやすいという特徴もあります。
下気道(気管や肺)でアレルギーが起こると咳という症状になります。
秋に多くなったダニの死がいやフンを吸い込むことによって鼻水や咳が出やすくなるのです。ということは、もしかしたら鼻や咳が出る症状があるためにアレルギー症状のことを風邪(症状的)と呼んでいるのかもしれないということになります。さらに、アレルギーによる鼻炎症状で鼻づまりがあると口呼吸になるために乾燥によるノドの痛みがあることもよくあるのです。
もう、そうなるとなおさら風邪(症状的)と言ってしまっても不思議ではないですね。
どうやってアレルギーと疑うのでしょうか?
風邪(ウイルス性上気道炎)とアレルギーとは見分けるのポイントは「風邪じゃないかも」と疑うことになります。
では、どんな症状が「風邪じゃないかも」と疑うポイントになるのでしょうか?
風邪(ウイルス性上気道炎)は長引いたり、繰り返したりしません。1週間から10日ぐらいで治ってしまうのが風邪(ウイルス性上気道炎)です。しかも、ウイルス性ですので、抗生物質は効きません。
とういことは「風邪をひくと長くなるのです」など1、2週間以上続くような場合や「季節の変わり目になると」とか「しょちゅう風邪を引くのです」など繰り返すような場合は「風邪じゃないかも」です。
また、「軽いけど咳がずっと続きます」、「鼻水がよく出ます」など同じ症状が続く場合も「風邪じゃないかも」です。
風邪(ウイルス性上気道炎)はいろんな症状が変化をしながら出現して治っていきます。
軽いのならより早く治るはずですから、軽い症状が続く場合も「風邪じゃないかも」になります。
もう一つ、症状に波があるのもアレルギーを疑います。時間による波(例えば、朝になると鼻や咳がでる)、日にちによる波、季節による波などです。場所による波も「風邪じゃないかも」と思わないといけませんね。
基本的には風邪(ウイルス性上気道炎)と気道アレルギーの症状はよく似ているので、「風邪か?、アレルギーか?」は経過をみて「風邪じゃないかも」と思うことがスタートになるのです。風邪は風邪だからアレルギーじゃないと思ってしまうと見つけられないのです。
風邪も、アレルギーも
では、どこまでを風邪と言いましょうか?
もちろん、ウイルス性上気道炎の①までは風邪ですね。アレルギーも鼻が出たり、咳が出たりするので、③は広い意味での風邪(症状的)の中に入ります。
ということはすべて風邪をひくと言っている可能性があります。
ではアレルギーのある人が風邪(ウイルス性上気道炎)にかかるとどう考えたらいいのでしょうか?
もちろん風邪ではありますよね。しかし、「風邪か?アレルギーか?」ではなくて「風邪も、アレルギーも」ということになります。
ということは風邪とアレルギーの両方のことを考えていかないといけません。
アレルギーのある人が風邪をひくとどうなるのでしょうか?
次の表は喘息を引き起こす誘因を調べたものです。一番多いのが感冒すなわち風邪であり、喘息の約7割のひとが経験しているというアンケートです。
簡単いうと「喘息もちの人が風邪をひくと喘息発作が出やすい」ということになります。
喘息は気道アレルギーの疾患として有名ですが、もう一つ有名なのが花粉症やダニ・ハウスダストで起こる(アレルギー性)鼻炎です。
アレルギーというのは過敏症でもあります。すなわち鼻やノドや気管などの粘膜が敏感な人という特徴があります。
「アレルギーの人が風邪をひく」というのはいいかえると「鼻やノドや気管が敏感な人が風邪を引く」ということになります。
そうなるとアレルギーのない人が風邪を引いた場合に比べて、鼻や咳がひどくなりやすかったり、長引いたりしやすい人が多くなります。
副鼻腔炎になりやすかったり、喘息発作が出やすかったり、という病態もこうゆうことかもしれませんね。
鼻が出たり、咳が出たりという症状ですので副鼻腔炎や喘息発作まで広い意味での風邪という意味でいっているかもしれません。
反対に鼻や咳が続いたり、ひどくなったりするのは、もしかしたらアレルギーがあるかも・・・
風邪(ウイルス性上気道炎)を検査で診断することは軽い症状でも風邪かも思うたびに検査をすることになるので現実的ではないでしょう。
一方、アレルギーの検査は何回もするわけではありませんので、「もしかしたら」と思ったら一度受けてみておくとはっきりしますのでおススメです。
結局はアレルギーがあることが分かっているの人が風邪を引くと「風邪か?アレルギーか?」と考えてしまうとややこしくなってしまうので、
「アレルギーの上にさらに風邪も」と考えると簡単になります。特に秋は風邪(ウイルス性上気道炎)も引きやすく、アレルギー症状も出やすい時期になるので気をつけましょう。
治療の面からもアレルギーの治療をするのか?風邪の治療をするのか?ではなくて、アレルギーの治療に風邪の治療を加えるということになり、すごく単純になります。
風邪も改まって考えてみるといろんな事が見えてきます。
「風邪は万病のもと」ということわざは「万病(いろんな病気の集まり)のことを風邪という」という意味と
「風邪をきっかけに他の病気が出てくる」という意味の2つを合わせたものなのでしょう。
この記事を書いた人
わしお耳鼻咽喉科 院長 鷲尾 有司
地域の皆様に少しでも貢献したいという思いを抱き、2011年11月11日に「わしお耳鼻咽喉科」を開院。
アレルギー治療を得意とし、「最新の正しい医療情報を共有して一緒に考える医療の提供」「できるだけ薬に依存しない治療法の提案」「患者様の負担を減らすための各種日帰り手術の提供」をなどを進める。
子どもたちの未来のために、“まちのお医者さん”をめざしています。