インフルエンザの薬って? ~新薬ゾフルーザのことも~
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1月に入って、3学期が始まって、一気にインフルエンザが流行してきました。
当院では現在のところ、A型インフルエンザしか診断されていませんが、例年であれば、A型の流行後にB型が流行することが予想されます。
また、A型でもH1N1とH3N2の2種類タイプのインフルエンザが検出されています。
残念ながら運悪く、A型インフルエンザに2回なったという人もすでに出てきてます。「もう1回なったから」と言って「大丈夫」というわけには今年は行かないようです。まだまだ、しばらくは油断禁物で、注意が必要です。
今回はそのインフルエンザの治療薬についてまとめてみました。現在、インフルエンザの薬がたくさん出ています。
もうご存知の人も多いと思いますが、インフルエンザに使われる薬にタミフル、リレンザ、イナビルがあります。
それらに今シーズンから新薬のゾフルーザが加わりました。そのほかにラピアクタという点滴薬もあります。
では、たくさんある中からどの薬をえらべばいいのでしょうか ?
早く、よく効いて、副作用がない薬がいいのですが、残念ながらそんなPERFECTな薬はないのが実状です。
抗インフルエンザ薬の作用機序は
どの薬かを選ぶ前にインフルエンザの薬とはどのようなものか知ってますか?
実はインフルエンザの薬というのはインフルエンザを治す薬でないのです。もっとも風邪薬も風邪を治す薬ではないですね。
しかし、風邪薬のように症状を緩和するような薬ではありません。あくまでインフルエンザにしか効果のないインフルエンザ専用の薬です。
ではどのような効果なのでしょうか?
抗インフルエンザ薬というのはインフルエンザウイルスが増殖するのを抑える効果のある薬です。
インフルエンザウイルスは咳などで空中にいる浮遊しているウイルスを吸い込むことによって体の中に入ります。(飛沫感染もしくは空気感染)
その後、「すばやく」、のどの粘膜の細胞の中に入り込みます。すばやく入ってしまうので、残念ながら、インフルエンザにはうがいが効果的ではありません。
(もちろん、他のウイルスなどには効果はありますので、うがいに意味がないということではありません)
細胞に入ったインフルエンザウイルスは急激に増殖していきます。その細胞から飛び出したインフルエンザウイルスが別の細胞に入り、また増殖をします。
これを繰り返すことによって、どんどんウイルスが増殖するのです。その増殖スピードが速いため、さっきまで元気だったのに、急に熱が出てきたりするのです。
抗インフルエンザ薬はその増殖に抑えることによってインフルエンザに効きます。要するにインフルエンザウイルスを退治する薬ではなくて、「増えるのを抑える薬」になるのです。
ということは今、体内にいるインフルエンザウイルスは自分の免疫力で退治することになります。
増殖を抑える薬である抗インフルエンザ薬ですが、抑えるポイントが違う2種類の薬があります。
一つ目がノイラミニダーゼ阻害薬といわれるタミフル、リレンザ、イナビルです。以前からあるお薬です。
これらはインフルエンザウイルスが細胞から飛び出すこと(遊離)を邪魔することによってウイルスの増殖を抑えるという薬です。
もう一つはCapエンドヌクレアーゼ阻害薬といわれる薬です。この薬はインフルエンザウイルスが増えること自体を抑える薬で今シーズンから使用可能になったゾフルーザがこの薬になります。
どちらもウイルスの増殖を抑えるという効果に違いはありません。ですので、インフルエンザに罹った人の熱の下がり方など、効果に差があるものではありません。
インフルエンザは薬を飲まないと治らない?
あくまでも、抗インフルエンザ薬はウイルスの増殖を抑える作用です。増えきってしまえば、どの薬でも効果が期待できないということになります。
増えきるまでの時間が発症後およそ48時間になります。ですので、熱が出始めてから48時間以内に薬を使わないと効果が期待出来ません。
さらに言えば、ウイルスはどんどん増えていきますので、出来るだけ早く使った方がよく効くということです。
では、そもそも抗インフルエンザ薬を使わないとインフルエンザは治らないのでしょうか?
実はそんなことはありません。薬を使わなくても「7~10日ぐらい」で「普通は」治ってしまいます。もし、抗インフルエンザ薬の効果がない場合であっても通常は治ってしまいます。
では、どうしてインフルエンザの薬は使うのでしょう?
使う理由は「早く治す」、「重症化しないように治す」ために使用するのです。「早く治す」のは、もちろん、早く楽になってもらうためですが、加えて、周りの人にうつす期間を短くするためでもあります。
もう一つ、「重症化しないように」治すことがインフルエンザの場合、大切になります。
重症化というのは単に熱が高いということではなくて、合併症である脳症や肺炎などにならないようにということです。そうすれば、インフルエンザも怖い病気ではなくなってしまします。
ということは、重症化のリスクが少ない軽症のインフルエンザは周りの状況によっては抗インフルエンザ薬を使わないという選択肢があるということです。
特に、発症後48時間は経過観察して、症状に変化が起これば投薬するということも可能です。
抗インフルエンザ薬は副作用の少ない薬剤であると考えられています。しかし、副作用のない薬は、残念ながら、ありません。
「インフルエンザだから、インフルエンザの薬を」ではなく、しっかりと状況に合わせて、どの薬を、だけでなく「使わない」ことも選択肢のなかに入れて治療法を選びましょう。
今までの抗インフルエンザ薬と新薬ゾフルーザの違いは
では何に差があるのでしょうか?
Capエンドヌクレアーゼ阻害薬の方が、インフルエンザの人の効果は同じですが、「人にうつす感染期間が短くなる可能性がある」と言われています。
しかし、残念ながらゾフルーザにも欠点があるのではと以前から言われていました。それは耐性の問題です。
耐性というのは要するに効かないウイルスのことです。ウイルスのしても最近にしても生物ですので常に進化していきます。特に複雑でないウイルスなどの生物は特に変化しやすいとも言えます。
今まで抗生剤なども耐性菌との戦いでした。むしろイタチごっこといってもいいかもしれません。新しい薬を作ってもどんどん使ってしまうとウイルスや細菌が進化をして効かなくなるのです。
出て間もないゾフルーザですが、国立感染症研究所がH31.1.28現在でA型インフルエンザの一つであるH3N2に対して9.5%に耐性があるという報告をしています。
今シーズンのインフルエンザはH1N1のA型インフルエンザとB型インフルエンザの報告もあり、これらにはゾフルーザの耐性は認められてません。
ちなみにタミフルとリレンザにはH3N2には耐性の報告はありませんが、H1N1にはそれぞれ0.3%の耐性が報告されています。どの薬にも一定の効かないウイルスがいるということになります。
もっと詳しく知りたい方は次のアドレスを参考にしてみて下さい。
https://www.niid.go.jp/niid/ja/influ-resist.html
抗インフルエンザ薬の選び方は?
ではどの薬がいいのでしょうか?
簡単に言ってしまいますと、すべての抗インフエウエンザ薬に良いところと悪いとことがあります。
まあ、おススメの一つがあるのではなくて、いろんな薬があるということはそういうことになりますよね。
それでは選んでいくポイントなります。まず初めは年齢です。
吸入薬は5歳以上が適応年齢になります。しかし、実際には吸入がうまくできるのが小学生以上ということが多いので、
保育園・幼稚園までのお子さんは内服薬が中心になるでしょう。さらに錠剤が飲めるかがポイントになります。
ゾフルーザは現在のところ、錠剤しかありませんので、錠剤が難しいお子さんはタミフル(のドライシロップ)を選ぶ形になります。
吸入が可能な小学生以上で、錠剤が飲める人は4種類の中から選ぶ形になります。
次に、一回で済む薬か、朝夕2回を5日間の薬か、になります。
もちろん、手軽さを考えれば、1回で済むイナビルもしくはゾフルーザになるでしょう。残念ながら、1回であっても、朝夕2回を5日であっても、効果の出方に違いがあるわけではないので、「1日で治るということではありません」、あしからず。
しかし、1回であるという欠点も考えておいた方が良いでしょう。それは、効果が出るのが想像していた時期より遅くなった場合です。
基本的には一回で済む薬でも、朝夕2回を5日間の薬でも、追加で抗インフルエンザ薬を使用することはありません。
ですので少し不安になったりするかもしれません。
もう1点は、吸うことや錠剤を飲むことに不安があるともう一回ということが難しい点です。
その辺りを念頭に置いて、どちらかを選ぶ形になります。
その次に内服薬もしくは吸入薬を選びましょう。
1回で済む薬を選んだ人は吸入タイプのイナビルか錠剤タイプのゾフルーザになります。
ポイントは新薬ゾフルーザです。新薬ということは実際に使われた数がまだまだ少ないために、これからいろんな情報が出てくる可能性があるということです。その一つが前述の耐性の問題です。
もちろん、うまく効果が出れば、他に人にうつすリスクが他の薬より低くなる可能性があるので、まだ罹っていない家族が多くいる家庭では良いのかもしれませんね。
そのあたりを考慮してイナビルかゾフルーザかを選びましょう。
朝夕2回を5日間の薬を選んだ人は内服薬(カプセルまたはドライシロップ)タイプのタミフルか吸入タイプのリレンザかになります。
以前は異常行動の主犯として扱われていたタミフルです。しかし、今では添付文書も改定になり、10代の患者さんへの投薬制限がなくなりました。
タミフル以外のリレンザ、イナビル、ゾフルーザなどでも異常行動の報告はありますし、抗インフルエンザ薬を使用していないケースでも異常行動の報告が認められます。
ですから、インフルエンザであれば、薬を使わなくても、どの薬を選んでも、異常行動には注意が必要になります。
タミフルもリレンザも20年近く使用されてきた薬剤で、データのがあり、実績のある薬です。悪いところも出尽くしているといってもいいでしょう。
そういう意味では比較的副作用の少ない薬とも言えます。両者に大きな差はないと考えています。使いやすさやイメージで決めるとよいでしょう。
最後にもう一つ、点滴の抗インフルエンザ薬であるラピアクタもあります。作用機序はタミフル、リレンザ、イナビルと同じノイラミニダーゼ阻害薬になります。
一回の点滴になりますが、基本的には重症のインフルエンザの人や他の薬を使うことが出来ない人が対象になります。
まずはラピアクタ以外の薬から選んでいきましょう。
最後に、どの抗インフルエンザ薬にも一長一短があります。
あくまでも、インフルエンザ治療の原則を理解して、また、それぞれの治療薬の特長を理解して選びましょう。
わしお耳鼻咽喉科ではすべての抗インフルエンザ薬が処方可能です。相談しながら処方を決めておりますので、お気軽にご相談ください。